タイ在住日本人向け 甲状腺治療:経口内視鏡とマイクロ波

タイの甲状腺治療最前線:経口内視鏡手術とマイクロ波アブレーションという新しい選択肢

首元のしこりや、甲状腺の手術あとに残る首の長い傷って、どうしても気になりますよね。昔は「大きな首の傷は仕方ない」とされていた甲状腺手術も、タイでは医療の進歩でかなりイメージが変わりつつあります。

タイの病院では、首に傷を残さない経口内視鏡手術や、切らずにしこりを小さくしていくマイクロ波アブレーションなど、見た目と生活の質に配慮した選択肢が広がっています。ここでは、โรงพยาบาลนวเวชのศูนย์ศัลยกรรมで甲状腺・副甲状腺を専門とする นพ. ธัญวัจน์ ศาสนเกียรติกุล による解説をもとに、今どきの甲状腺治療の流れをまとめます。

甲状腺の病気と、まず考えるべき治療方針

甲状腺の病気と一口に言っても、すべてが同じ治療になるわけではありません。大きく分けると、治療方針が違う2つのグループがあります。

ひとつは、甲状腺ホルモンのバランスが崩れるタイプです。たとえば、甲状腺機能亢進症(ハイパー)や甲状腺機能低下症(ハイポ)のように、ホルモンが多すぎたり少なすぎたりする状態がこれにあたります。このグループでは、治療の中心はあくまで薬でのコントロールで、いきなり手術を心配する必要はないとされています。

もうひとつは、ホルモンの値は正常なのに、甲状腺にしこり(結節)や腫瘍・がんが見つかるケースです。この場合でも、今のタイの医療では「すぐ切る」のではなく、まずは可能なかぎり手術を避ける方向で検討されます。

しこりが良性か悪性かを見極めるために通常は針生検などで組織検査を行いますが、結果がどうしてもグレーゾーンで診断が難しいケースもあります。そんなときに使われているのが、分子診断(Molecular Testing)と呼ばれる遺伝子レベルの検査です。

しこりの細胞の遺伝子変異を詳しく調べることで、悪性化のリスクが高いかどうかをより深く評価し、手術の必要性を判断する材料にします。これにより、不要な手術を減らせる可能性があり、患者さん一人ひとりにより適した治療方針を立てやすくなっています。

タイで進化する甲状腺手術:経口内視鏡手術の特徴

検査の結果、どうしても手術が必要と判断された場合でも、タイでは従来の「首の正面を大きく切る手術」だけではありません。最近注目されているのが、「経口内視鏡手術(経口アプローチ)」という方法です。

この手術では、皮膚の外から首を切開するのではなく、下唇の内側(口の中の粘膜)からアプローチして甲状腺に到達します。そのため、外から見える首の部分には傷が残らないのが大きなポイント。首元の開きが多い服や、水着・スポーツウェアを着る機会が多い人にとって、心理的な負担がぐっと軽くなります。

さらに、手術には高解像度(High Definition)のカメラシステムが使われ、首の内部の構造を拡大して確認しながら進めることができます。これにより、声帯を動かす神経や、小さな副甲状腺をより丁寧に見分けながら手術を行えるようになり、声がかすれる合併症や、術後の低カルシウム血症のリスクを抑えることが期待されています。

また、血管を切ったり閉じたりする専用器具を使い、手術中の出血がコントロールしやすくなっています。さらに、IONM(Intraoperative Nerve Monitoring)という神経モニタリング装置を用いて、声帯を動かす神経の位置や機能をリアルタイムで確認しながら進めるケースもあります。特に、癒着や線維化が強くて複雑な症例では、このようなサポートが安全性の向上に役立ちます。

一方で、すべての甲状腺手術が経口内視鏡でできるわけではありません。しこりがあまりにも大きい場合や、周囲の臓器に広がっている場合など、内視鏡の適応範囲を超えるケースでは、標準的な「開放手術(Open Surgery)」が選ばれます。これはあくまで、患者さんの安全と根治性を優先した判断として行われます。

切らない甲状腺治療の選択肢:マイクロ波アブレーション(MWA)

「首に大きな傷は避けたい」「全身麻酔の大きな手術は不安」という人にとって、もうひとつ心強い選択肢になっているのが、マイクロ波アブレーション(MWA: Microwave Ablation)です。

これは、超音波(エコー)でしこりを確認しながら、細い針を刺し、マイクロ波による熱エネルギーでしこりそのものを焼灼していく治療です。ターゲットは“しこりだけ”なので、周囲の正常な甲状腺組織へのダメージを抑えやすく、その分、甲状腺本来のホルモン産生機能も保たれやすいとされています。

甲状腺全体を切除する手術と比べて、ホルモン低下のリスクや、長期的にホルモン薬を飲み続ける必要性を減らせる可能性がある点も特徴です。また、この治療では全身麻酔は使わず、局所麻酔で行えるとされています。そのため、からだへの負担が軽く、施術時間や回復までの時間も、従来の大きな手術と比べて短くなりやすいのが魅力です。

マイクロ波アブレーションが特に向いているとされているのは、「良性の甲状腺結節」で、「がんではない」ことが確認されているタイプのしこりです。しこりが大きくなって喉を圧迫している、見た目に目立ってきて気になる、でもメスを入れる手術は避けたい…という人にとって、検討しやすい選択肢になっています。

広がる非手術治療のトレンドとチーム医療の取り組み

タイをはじめ、アメリカ、中国、日本など、世界的にも甲状腺治療は「できるだけ手術を減らし、必要な人に絞る」という方向にシフトしてきています。経過観察でしっかりフォローしながら様子を見るケースや、マイクロ波アブレーションのような“切らない治療”を取り入れる流れが強まっているのが特徴です。

同時に、どうしても手術が必要な人へのサポート体制も進化しています。โรงพยาบาลนวเวชでは、Value-Based Healthcare(患者さんにとっての価値を重視した医療)という考え方のもと、手術を受けるすべての患者さんが事前に心臓内科医と麻酔科医による評価を受ける仕組みが整えられています。

さらに、手術後も多職種のチームが継続的に状態をフォローし、不安の軽減と、必要な治療へのアクセスを高める取り組みが行われています。これらの工夫は、合併症のリスクをできるだけ低く抑えながら、一人ひとりに適した甲状腺治療を提供するためのものです。

「甲状腺のしこり=すぐ首を大きく切る手術」という時代から、検査や分子診断でしっかり見極め、必要に応じて経口内視鏡手術やマイクロ波アブレーションなどを組み合わせる時代へ。選択肢が増えたことで、首元の見た目や日常生活を大切にしながら治療を選べる可能性が広がっています。

まとめ

甲状腺の病気は、ホルモン異常が中心のタイプと、しこりやがんが見つかるタイプで、治療のアプローチが大きく変わります。タイでは、まずは薬物療法や経過観察、分子診断などで「本当に手術が必要か」を丁寧に見極める流れが主流になってきています。

それでも手術が必要な場合には、首に傷を残さない経口内視鏡手術や、高精細カメラ・神経モニタリングなどの技術を組み合わせることで、見た目と安全性の両面に配慮した治療が行われています。さらに、良性の大きなしこりに対しては、マイクロ波アブレーションという“切らない治療”という選択肢も登場しています。

首元の美しさや自分らしいライフスタイルを大切にしながら、医師と相談して自分に合った甲状腺治療を選んでいくことが、これからますます現実的になっていきそうです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 甲状腺の病気は、必ず手術しないといけないのですか?

A1. 甲状腺ホルモンのバランスが乱れるタイプ(甲状腺機能亢進症や低下症など)は、基本的に薬による治療が中心で、直ちに手術を心配する必要はないとされています。ホルモンが正常でもしこりやがんが見つかった場合に、検査結果を踏まえて手術の必要性が検討されます。

Q2. 経口内視鏡による甲状腺手術にはどんなメリットがありますか?

A2. 下唇の内側からアプローチするため、首の皮膚に外から見える傷が残らないのが大きなメリットです。高解像度カメラで視界を拡大しながら行うことで、声帯を動かす神経や副甲状腺を丁寧に温存しやすく、声のかすれや低カルシウム血症のリスクを抑えることが期待されています。

Q3. どんな場合に従来型の開放手術(Open Surgery)が選ばれるのでしょうか?

A3. しこりが非常に大きく、内視鏡手術の適応範囲を超えている場合や、腫瘍が周囲の臓器にまで広がっている場合などは、開放手術が選択されることがあります。これは、標準的な治療方針に沿って、安全性と治療効果を確保するための判断です。

Q4. マイクロ波アブレーションは、どんな人に向いている治療ですか?

A4. 良性の甲状腺結節で、がんではないと評価されているしこりがあり、それが喉を圧迫したり、見た目に影響して気になる人で、できるだけ手術を避けたい場合に向いているとされています。超音波で確認しながらマイクロ波の熱でしこりを狙って処理し、周囲の正常な甲状腺組織へのダメージを抑えることを目指します。

Q5. タイの甲状腺治療は、今どんな方向に進んでいますか?

A5. まずは手術を避ける方針を優先し、分子診断や経過観察で不要な手術を減らす流れが強まっています。そのうえで、必要な場合には経口内視鏡手術やマイクロ波アブレーションなど、見た目や生活の質に配慮した選択肢を組み合わせ、心臓内科医や麻酔科医、多職種チームによるサポート体制のもとで治療が行われています。

参照元:โรงพยาบาลนวเวช

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